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◆マクストフ系望遠鏡の歴史◆
マクストフ光学系の発明は第二次世界大戦中の1940年代にまでさかのぼります。それまでの複雑なシュミット補正板に代わるものとして、深いカーブのメニスカスレンズが球面主鏡の球面収差を効率的に補正できるという事実にロシアのマクストフ、オランダのバウワーズ、イギリスのガーバー、ドイツのペニングら4人の光学設計者たちがそれぞれ独自に気付きはじめました。折しも第二次世界大戦の最中、他に先駆けてマクストフは1944年5月に「新しいカタディオプトリック・メニスカス光学系」という論文を疎開先の米国で発表し、これにより現在、一般的にこれらのメニスカス光学系を「マクストフ」と言う総称で呼ぶようになっています。マクストフは戦後ロシアに帰国し、その生涯をかけてマクストフ系望遠鏡の製造指導と普及活動に尽力しました。現在のロシアにおいて、天体望遠鏡のみならず写真用の望遠レンズに至るまで広くマクストフ系が採用されているのは、ひとえに彼の努力のたまものです。

いっぽう、マクストフ光学系は米国やヨーロッパにおいても進化の歴史を辿りました。米国における最初のカセグレン系への実用化は1954年、ローレンス・ブレイマーが9cmの小口径マクストフカセグレン「クエスター」を発表したことに始まります。補正板前面中央にメッキを施し、マンジャン鏡(裏面反射鏡)に転用した独自の設計を用いたクエスターは、その高性能とポータビリティの良さにより絶大な評価を博しましたが、口径に比して余りにも高価なため、一般ユーザーの間に普及するには至りませんでした。

米国におけるマクストフ系の大衆化・大型化は、1957年にジョン・グレゴリーが20cmF15及び27cmF15のモデルを発表したことに始まります。メニスカス補正板の裏面中央部にメッキを施し、その部分をカセグレン副鏡として用いる簡便な方式で、現在でもこの方式は彼の名を冠して「グレゴリー型マクストフカセグレン」と呼ばれています。

いっぽうヨーロッパではオランダのハリー・ルッタンが、マクストフカセグレンの副鏡部分に補正板裏面とは異なった曲率を与えることにより、色収差・球面収差・コマ収差・非点収差・歪曲収差・湾曲収差の全てが効率的に減少できる画期的な改良型設計を発表しました。この形式は彼の名を冠して「ルマック型マクストフカセグレン」と呼ばれています。この形式は旧東独カールツァイス(イエナ)社により実用化され、1984年に発売された18cmF10のモデルは永らく名機として好評を博し続けました。

1992年、前年の旧ソ連崩壊を機に私営化された望遠鏡メーカーであるモスクワのインテス製造共同組合によって製造された15cmF10ルマック型マクストフカセグレン「MK-65」が、米国・ヨーロッパ・日本など旧西側市場に彗星の如く現れました。マクストフの母国ロシアで製造されたこの望遠鏡の初期モデルは、鏡筒の造りにやや荒削りなところがあったものの、光学系の性能は高く、更に旧来のマクストフ系望遠鏡よりも各段に安価であったため、旧西側市場には驚きと賞賛が相半ばする形で受け入れられました。ほどなく、インテスから分派した技術者集団がインテスマイクロ株式会社を設立し、インテス社よりも更にマニアックなデザインのマクストフ系望遠鏡を次々と発表してゆきました。更に1990年代末にはインテス社から新たに分派した技術者集団がSTF社を設立し、18〜20cmのルマック型マクストフカセグレンを発表するに至りました。その後インテス社は2004年に廃業し、現在の輸出市場ではインテスマイクロとSTFの2社が寡占状態を確立しています。

1990年代後半に入ると、米国メーカーが中国でOEM生産した安価なグレゴリー型の販売を始めたことにより、マクストフカセグレンは一気に大衆化してゆきました。その後、同様に中国等で量産された9cm〜18cmクラスのシンプルなグレゴリー型がいくつもの異なったブランド名で次々と発表され、現在の混戦状況に至っています。

マクストフ光学系は、特に眼視用望遠鏡に関しては1944年の発明以来、長期間に渡ってカセグレン系への応用が主でしたが、1993年にカナダのピーター・セラボロが145mmF6と216mmF6のマクストフニュートンを発表してから状況が大きく変わりました。それまでもマクストフニュートンは主に直焦点星野写真用として時折製造されていましたが、それらは写野確保のために巨大な斜鏡を用いており、眼視用としては余り適さないものでした。いっぽうセラボロのモデルは非常に小さな斜鏡を用い、更にそれを補正板に直接固定することによって光路遮蔽を大きく減じたことにより、特に惑星面など、高度なデフィニションが要求される観測対象において同口径の優秀なアポクロマート屈折に劣らない像質を示すもので、まさに設計上の盲点を突いた画期的なものでした。しかし価格がかなり割高だったことと、量産が難しかったことにより、多くのユーザーを得るには至りませんでした。

1996年、セラボロ・モデルのポテンシャルに魅せられた笠井トレーディングは15cmF6小遮蔽マクストフニュートンの基本設計を考案し、インテス社に製作を依頼しました。1997年夏にようやく最初の試作機「MN-61」が完成し、これを契機に、インテス及びインテス・マイクロ社が競って様々な口径の小遮蔽マクストフニュートンを発表し、世界各地のディーラーによって広く供給され、主に惑星観測者の大きな支持を得るに至っています。(先にも述べましたが、その後インテス社は2004年に廃業したため、ロシア製マクストフニュートンは現在ではインテスマイクロ社の独占状態となっています。)
◆マクストフ系望遠鏡の特徴◆
マクストフ系は原則として球面で構成されており、その点では屈折望遠鏡に共通するメリットがあります。球面は放物面など非球面と比較して滑らかな光学面が製造し易く、また非球面化研磨によって発生しがちなゾーンエラー等も非常に少ないため、スムーズで精度の高い光学面がコンスタントに製造できます。(注:製品の一部には最適化の目的で主鏡を非球面化しているものもありますが、その度合いは球面と放物面との差の1/10程度の僅かなものであり、そのぶん非球面化に伴うデメリットもごく僅かなものにとどまります。)特にスムーズな光学面が得られるメリットは実際の像質にストレートに反映され、立体感と階調表現の豊かな「マクストフらしい」見え味をかもし出す重要な要素となっています。

眼視用マクストフの殆どは補正板の中央部を副鏡として用いるか、或いは別途製作した副鏡を補正板中央にセルで直接固定しており、通常のニュートンやカセグレン系にみられるスパイダー(副鏡支持金具)を用いていません。この構造はスパイダーの存在に伴う回折像の乱れや劣化が回避できるため、高倍率で恒星を見ても不快な光芒が無く、明瞭なアエリーディスクと乱れの無い綺麗なディフラクションリングを示し、中央遮蔽率が同じニュートンやカセグレン系と比較すると、特にデフィニションの高さが要求される惑星や二重星等の観測において非常に有利に働きます。

内側に大きくカーブした補正板の形状は、迷光処理の点でも有利に働きます。平面に近い補正板を使用したシュミカセ等の場合、主鏡で反射した迷光の一部は補正板裏面で再反射して主光束に混入し、視野内のコントラストを低下させます。いっぽうマクストフ補正板の場合、主鏡で反射した迷光は補正板裏面の曲率の強い凸面に再反射して周囲に大きく拡散し、主光束に混入することは殆どありません。一般にマクストフ系望遠鏡が高コントラストであると言われるのは、この補正板の形状による迷光処理効果の貢献度が大であると言えましょう。
◆グレゴリー型マクストフカセグレン◆
Gregory Maksutov Cassegrainグレゴリー型マクストフカセグレンはメニスカス補正板の裏面中央に部分メッキを施して副鏡の代用としたもので、最もベーシックな設計です。欧米や日本ブランドの小中口径機(大半は中国製OEM)の多くはこのタイプを踏襲しています。光学エレメントを2枚しか必要とせず、また研磨面も3面だけなので比較的簡単に製造できて製作コストもかなり安く、大量生産に向いています。しかしその反面、球面収差、色収差、非点収差、コマ収差、像面湾曲など様々な収差が残存し、それらを回避するためにはF値をかなり暗く(F15かそれ以上に)する必要があるため、広視野低倍率での星野観望を含む天体望遠鏡の用途全般をカバーするには汎用性に欠ける、という大きな問題があります。また、副鏡部にラッパ型の大きなバッフルを装着(接着材で固定)するか、或いは直入迷光を避けるために副鏡部分径に十分な余裕を持たせる必要があるため、F値が暗いわりに、実質的な中央遮蔽率がずいぶん大きくなってしまう欠点もあります。しかしながら、とにかく安価に製造できるため、月や惑星など比較的高倍率で見る観測対象に限定して、気軽にマクストフ特有の像質を楽しみたい方には好適でしょう。
◆ルマック型マクストフカセグレン◆
Rumak Maksutov Cassegrainルマック型マクストフカセグレンはメニスカス補正板の中央に穴を設け、そこにセルをはめ込み、補正板とは全く別の曲率を持った副鏡を別個に設置した設計です。グレゴリー型を「第1世代」とするならば、ルマック型は第1世代の欠点を解消した「第2世代」とでも呼ぶべき改良型と言えましょう。ルマック型では色収差やアス、像面湾曲やコマ収差などが全て綺麗に補正され、眼視用のみならず直焦点撮影に用いても写野の隅々までピンポイントの星像を結ばせることが可能になります。更に口径を大型化しても、或いはF10程度の比較的明るいF値を採用しても球面収差を十分に抑え込む設計が可能になり、汎用性の点でもグレゴリー型より遥かに有利です。もちろんその反面、光学エレメントを3枚必要とし、また研磨面も4面となり、更に副鏡の独立設置に伴う部品点数の増加や鏡筒構造の高精度化が必須となるため製造が難しく、製作コストも随分高くなります。それでもなお、光学性能が優秀で汎用性も高いマクストフカセグレンを本気で求めるならば、ルマック型以外にその選択肢は無いでしょう。
(注):ルマック型には副鏡をセルに入れて設置する設計の他に、補正板中央部裏面に副鏡を貼り付けた簡便な設計や、或いは補正板中央部を周囲と異なる曲率に独立研磨した上でメッキを施した、グレゴリー型との折衷型のような設計も有り、そのような設計に基づいて作られた市販品も実際に存在します。このような製品の場合、補正板中央が銀色に光っているのでグレゴリー型と見分けがつきにくいのですが、蛍光灯のような細長いものを補正板に反射させてみて、副鏡部分と補正板部分で反射した像がつながっていればグレゴリー型、副鏡部分だけが全く違う反射像を見せていればルマック型であると判断できます。
◆小遮蔽マクストフニュートン◆
Maksutov Newtonianマクストフニュートンはニュートン式の前にメニスカス補正板を配置した形式で、コマ収差や像面湾曲が同F値の純ニュートンと比較して約1/4まで減少するため、主にアストロカメラとして利用されることが多かったものです。しかしこの設計は、比較的短焦点でも極めて高いレベルの球面収差補正が維持できる点やスパイダーが省略できる点、メニスカス補正板による迷光低減効果、拡大光学系を含まないシンプルな設計により品質管理が容易である点など、眼視用望遠鏡としても有利な点が多くみられます。更にニュートン系に共通した特徴として、カセグレン系よりも中央遮蔽径(副鏡径)を各段に小さくすることが可能であり、デフィニション劣化の原因となる光路遮蔽を減じる上でも非常に有利な設計です。インテス・マイクロ社のマクストフニュートンはF6〜F8という汎用性の高いF値でありながら13.3%〜22.8%という非常に小さな中央遮蔽率を達成しており、これによる像質改善効果は絶大なものがあります。惑星面の模様が全体的により濃く見えてくることに加え、特に木星のフェストーンや土星のエンケ空隙など、極めてコントラストが低く背景に埋もれがちな部分も明瞭に浮かび上がってきます。またマクストフニュートンはF値が明るいことにより低倍率が得やすく、周辺収差も非常に少ないので、星雲星団観望用としても優れた望遠鏡です。マクストフカセグレンよりも鏡筒が長くなり、また重量も少々かさみますが、惑星観測をメインに据えつつ、汎用性も確保した高性能な望遠鏡を求めるのであれば、マクストフニュートンは選択肢の筆頭に挙げるべきものでしょう。
笠井トレーディングは1993年以来、一貫してマクストフ系望遠鏡の開発・販売に携っております。マクストフ系についての疑問やご不明な点などがございましたら、どのようなことでもお気軽にご相談下さい。
〒153-0051 東京都目黒区上目黒5-19-33 (株)笠井トレーディング
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